弁護士の独立開業が失敗する理由はこれ
弁護士となったら、いずれは独立して自分の事務所をかまえたいもの。最近では勤務してきても条件があまりよくなかったり「ブラック事務所」などと言われる事務所もあったりして、独立開業を希望される若手弁護士が多数おられます。 確かに従前、弁護士といえば「独立したら誰でも食べていける」仕事でしたが、今は様相が変わっており、注意していないと失敗する可能性もあります。 以下では弁護士の独立開業が失敗するパターンや適切な対処方法をご紹介していきます。 |
1.弁護士が独立に失敗する4つの大きな要因
弁護士が独立する際に注意していないと失敗してしまう要因は、主に以下の4つです。
(1)お金の問題
(2)事務所の立地や物件、設備などの問題
(3)集客力の問題
(4)管理の問題
反対に言うと、この4点をきちんとクリアできていれば独立開業は成功します。
以下で、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
2.お金の問題
お金の問題としては、以下のようなことがポイントです。
2-1.資金不足
事務所を開業するときには、ある程度まとまった資金が必要です。最低でも以下のお金を算段しておく必要があります。
■賃貸物件の保証金
■事務所の内装費用
■机や椅子、棚などのオフィス用品代
■看板や時計などの備品代
■パソコンなどの機器代
■複合機の費用
■電話機と主装置の費用
■プリンターの費用
また開業後はしばらくお客さんが来ないかもしれないので、ある程度運転資金を手元に置いておくべきです。
開業資金の金額はケースにもよりますが、少ない人で300万円、多いケースでは1000万円以上かかります。
資金調達の目途がたっていないのに開業しようとしてもうまくいきません。また予算内でうまく開業計画を立てないと、お金が足りないのでやりたかったことができないことになってしまいますし、独立後手元にお金がまったくなく不安な思いをするケースもあります。
2-2.過大な投資
開業の際、「どこまで新事務所に投資すべきか」という問題があります。
ここでの失敗例は、過大な投資です。せっかくだから都会の一等地に物件を借りて高級感を出すために良い内装を整えて、当初からアソシエイトを入れて事務員も何人も雇って…と考える弁護士が実際にいます。
確かに、事務所の構えを整えた方が金払いの良いお客さんが来る可能性はありますが、限度があります。
当初、集客の目途をきちんと立てられていないにもかかわらず多額のローンを組んで投資しすぎると、資金繰りの目処が立たなくなって追い詰められてしまいます。
開業当初の事務所設備や内装は最小限度でもよく、事務所がうまく回転し始めたら良い物件に移るなどして大きくしていけば良いのです。
当初から投資しすぎるのは危険なのでやめましょう。
2-3.経費がかかりすぎる
次に開業してからの経費がかかりすぎる問題です。
事務所を開業すると、毎月賃料や人件費、リース代や弁護士会費などが発生します。そういった経費をきちんと支払えるだけの売上げがないと、じり貧になって追い詰められてしまいます。
開業当初は多くの売上げを期待できないので、なるべく固定経費は抑えるべきです。たとえば賃料の安い物件を選ぶ、事務員は雇わないか一人にする、レンタルオフィスを利用する、リース物件は安いものを選ぶなど工夫ができます。
固定経費を大きくすると、首を絞めることになるので要注意です。
3.立地や物件の問題
次に事務所を設立する立地や物件選びの問題をみてみましょう。
3-1.地方の問題
立地は弁護士の独立開業で非常に重要な要素ですが、まずは都会か田舎のどちらにすべきかを検討しましょう。
都会には多くの弁護士がいます。一般の方や企業が弁護士に相談・依頼するハードルも田舎より低くなっていますし、ウェブ集客も有効です。
ただし弁護士が多いのでライバルがたくさんいますし、価格競争が起こっていて一件あたりの報酬が少なくなるケースもあります。忙しい割に手取りが少ない状態にもなりやすいです。
一方地方の場合、弁護士の敷居が高くまだまだ人づての紹介依頼などが多く、はじめてその地方を訪れた弁護士には集客しづらい面もあります。
ただ一件あたりの単価が高かったり弁護士同士が競争をしていなかったりして、のんびり営業している割に高収入な弁護士が多かったりはします。
出身地や修習地、知り合いがいるなど何らかの伝手があるなら地方開業はお勧めです。
3-2.立地の問題
同じ東京でもどのような場所に事務所を設立するが重要です。できれば多少お金をかけても駅から近い場所、地方なら車で通いやすい場所に開業することをお勧めします。
たとえばHPで弁護士事務所を探すとき、同じようなサービス内容であれば駅近な事務所を選ぶ方が多くなるためです。
またあまり治安が悪い場所や、周辺にいかがわしい店が多い地域などは避けた方が無難です。事務所のイメージが悪くなりますし、通いにくくて敬遠される可能性があるからです。
さらに訴訟案件が多くなる場合、裁判所から遠いと圧倒的に無駄な時間がかかりますので、裁判所の最寄りの場所にするのは基本でしょう。
3-3.物件の問題
独立開業の際、どのような物件にするかも問題となります。
過大な投資の問題でも指摘しましたが、必要以上に良い物件を借りる必要はありません。
ただ、あまりぼろビルで小さすぎる物件にすると、相談者の印象が悪くなります。紹介案件が主ではじめから依頼を前提にした人しか事務所に来ないのであれば問題ないかもしれませんが、今の時代、紹介よりもウェブなどによる集客をメインにする弁護士が増えています。
それならば、一見さんのお客様に不快感や不安感を与えない物件を選ぶ必要があります。
安くてもきちんとリフォームや管理などが行き届いており、事務員1人とアソシエイト1人くらいは雇えるくらいのスペースのある物件を借りましょう。
4.集客力の不足
弁護士が独立開業するとき「集客力」は必須です。
一昔前は「知り合いの紹介」「電話帳」「弁護士会からの紹介」「先輩からの紹介」などが多くありましたが、今や時代は変わりウェブ集客メインになっている事務所が増えています。
ウェブ広告にお金をかけることに躊躇する先生もおられますが、他の広告手段や物件設備に対する投資と比べると、ウェブの広告は費用対効果が抜群に良いです。
HPを作ったら後は自分でも管理できますし、広告業者に管理を依頼しても月数万円程度しかかかりません。一方収入としては、1件問い合わせがあって成約したら数十万円以上入ってくるのですから、すぐに元は取れます。
また今どき、ホームページもない法律事務所は一般人から見ると「時代遅れ」「怪しい」「よくわからないから電話をかけられない」と思われてしまいます。
広告にお金をかけず、集客できずにじり貧になって独立に失敗するよりも、当初からきちんとHPを作って集客手段を確保しておきましょう。
5.管理の問題
最後に、人とお金の管理の問題です。
5-1.事務所内の人的管理不足
法律事務所では、事務員やアソシエイトなどの「人」を雇う必要があります。
このとき、雇った人の管理がうまくできていないと経営に失敗します。
弁護士の業務は事務員に依存するところが大きいので、うまく関係を構築して効率的に働いてもらうことが大切です。
しかし、良い人を採用できなかったりうまく教育できなかったりすると、給料に見合った働きをしてくれません。男性弁護士の場合,事務員ともめて「セクハラ」などと言われるケースもあるので対応に注意が必要です。
アソシエイトを雇う場合にも、うまく使えないと給料の払い損になってしまいます。アソシエイトは甘やかしすぎても厳しくしすぎてもいけませんし、経営者弁護士との相性などもあるから難しいところがあります。
また管理を甘くして事務所のさまざまな機能を丸投げしていると、事務員やアソシエイトに事務所のお金を横領されるケースなどもあるので、注意が必要です。
人を雇っても、重要なところでは自分でしっかり管理する姿勢を持ちましょう。
5-2.報酬管理能力の不足
弁護士事務所の運営では、売上げ金の管理が非常に重要です。いくら頑張って事件処理をして高額な報酬が発生しても、依頼者がきちんと払ってくれなかったら何の意味もありません。
弁護士は、人の債権回収は積極的に行っても自分の報酬請求をよしとしない面がありますが、債権回収はきちんと行うべきです。
また依頼を受けた当初に正当な金額の報酬金が発生する契約をすることも重要です。国選や法テラスだけでは事務所を回していくのが困難ですし、依頼者との契約では仕事内容に見合った対価を設定すべきです。
何となく報酬を請求するのが悪いとか、相手にお金がなさそう、支払ってくれなさそうなどと思って安くしてしまう方もおられますが、仕事をするのですから堂々と報酬を請求しましょう。
「弁護士は昔と比べて食えない仕事になった」などと言われますが、今でも他士業に比べたら十分恵まれた資格です。
ほんの少しの注意で大きく成功できるので、この記事を参考に独立開業を成功させてください。